今年3月からスタートしたSALONAIRが区切りの良い10回を終えました。この企画の意図するところに、芸術にとって大きなものがあると自負していますが、動機と言えばとても個人的なものでした。エストニアに活動拠点を移した僕にはいくつかの大きな不満要素がありました。同時にそれらは日本に対する失望と評価も兼ね備えていました。それはブルーノ・タウトが日本の美を日本人に伝えたのと似ているのかもしれません。フラストレーションの要因がエストニア人の気質や僕自身がアニメーションを表現媒体としている事、助成制度を利用している点が要因でもあることは認識していました。そんななか、「では他の国にいる日本人作家はどうなんだろう?他国は満足する環境なのだろうか?」こういった素朴な疑問と好奇心がSALONAIRを始めるきっかけのひとつでした。
現在僕は文化庁の助成制度でエストニアにいます。ほとんどの研修員が自分の作品制作のために海外に在住しています。もちろん僕もエストニアでリサーチと作品制作をしています。そんな日々が半年過ぎた冬の2月、ふと思ったことがありました。「繋げていく事も自分が今ここにいなければできないことだ」と。SALONAIRはSkypeを使っています。偶然にも僕の住んでいるタリンはSkypeが生まれた町です。この地は世界と繋がりたいと思わせる何かがあるのかもしれません。
プロジェクトを思い付いて次の日には、最初のゲストを集めるべく動き始めていました。返信の早かったゲストの中に第1回ゲストの宮嶋みぎわさんがいたのですが、僕にとってこの出会いはもっとも幸運でした。彼女の紹介でStopmotion.jp主宰の大野さんと繋がり番組の土台ができ、そのあと第8回ゲストのハラサオリさんが偶然にもデザインが出来る方だったため、ロゴなど担当していただける事になったのです。SALONAIRはこのような幸運を持ち合わせていたし、スタートするべくしてスタートした、僕は今振り返ってそのような運命じみたものを感じています。
多くの方が言及しているように、海外で活動して行く上では日本人のアイデンティティを意識せざるを得ません。一番始めは言語で。次に、なぜここにいるの?と聞かれることで。すぐに作品や活動が日々の形成と結びつくことは考えにくいでしょう。まずは、現地の人との異差をどうするかという事になります。相手に差を説明するのか、認めさせるのか、自らが妥協し受け入れるのか、理解できない事を理解しようとするのか、拒絶するのか。これらのことからスタートするでしょうし、結局のところ常にここに辿り着くような気さえしています。違いを認識できても認めるまでは難しく、そういった日常を作品にどのレベルで取り入れ鑑賞者にメッセージとして形に出来るのかは、さらに難易度が高いはずです。しかしながらこれらのことを意識する姿勢がないかぎり、国際的な芸術活動を形成していくことは難しいのでしょう。となると、私やゲストの方々は今まさにそこへ向かい始めた立場にあると言えるでしょう。
(写真はすべてアンドレイ・タルコフスキー映画『ストーカー』ロケ地近郊・タリンにて)
SALONAIRはモデレーターの僕ALIMOが日本へ一時帰国するため、8月いっぱいお休みさせていただきます。一ヶ月の充電を経て、再び世界中に散らばっている日本人の人たちと対談できることが楽しみで仕方ありません。芸術に関わる日本人が国と国をリアルタイムに繋ぎ、ジャンルを横断しながら対談する番組SALONAIRを今後とも宜しくお願いいたします。
次回SALONAIRは9月中旬予定!