2013年11月16日土曜日

<後記> 第14回ゲスト:日名淳裕さんより

オーストリアの首都ウィーンはよく知られた音楽の都であるだけでなく、演劇、文学、絵画、建築、映画、アート、パフォーマンスなどあらゆる表現活動の一大拠点である。詩人ホーフマンスタールがオペラや映画の台本を書き、音楽家シェーンベルクが絵を描き、画家ココシュカが戯曲を書いたときに、背景としてあったのはあらゆる芸術家の横断的交流を可能にした芸術の街としてのウィーンであった。このような街の性格はいまも変わらない。文学作品を視覚化する舞台、音楽化するオペラ、映像化する映画、ひとつの詩に色と形をあたえる絵画。市中に星のごとくちらばるカフェにゆけば、観光客の傍らで著名作家がくつろいで執筆し、学生と教授が議論している。朗読会は作家が聴衆にすすんで自らを曝す場所であり、そうすることで受け手をみずからの作品のうちに取り込んでゆく。このような街に生活しながら文学を研究しているうちに、おのずとわたしの研究についての考え方も変わってきたように思う。いっぽうで体系化されたアカデミズムの世界に学びつつも、異なった表現活動との対話や接触を拒む理由はないはずである。むしろそのような<摩擦>からなにか新しいものが生まれることを積極的に汲みとってみるのもよいだろう。ちょうどそのようなことを考えていたときに、SALONAIRへの参加を呼びかけていただいた。東京―タリンを主軸としてそこから第三の都市へ、その地で活動する日本人アーティストたちへと「リアルタイムでジャンルを横断しながら」展開しようという試みにふかく共感した。
モデレーターのALIMOさんとの対談のなかでは、ウィーンで文学を研究しながら生活するわたしの目に映り、耳に聞こえ、肌に触れる風景を紹介したかった。近所にあるヨーゼフシュタット劇場と住宅街を告知用の写真として選んだ。その他の写真はアドミラル映画館、映画博物館、フロイト博物館、作家バッハマンの家、戦時中の高射砲跡、ホロコースト記念碑、文学の家などである。それぞれ、映画監督の話を聞きに行ったり、著名な作家の生活した土地を歩いてみたり、通りの喧騒の底にねむる歴史の傷跡を探したり、忘れられた文献を調査したりする際にしばしば訪れる場所である。
いくつかオーストリアの文学作品についても紹介させていただいた。青年期にウィーンで薬学を修めたトラークル、1948年にパリへの亡命途上に数か月ウィーンに滞在したパウル・ツェラン、そのツェランとウィーンで恋に落ちた詩人インゲボルク・バッハマン、ミヒャエル・ハネケの映画「ピアニスト」の原作者であり、2004年にノーベル文学賞を受賞したエルフリーデ・イェリネク、精神分析をはじめたジークムント・フロイトなど。ここで補うとしたら、劇作家グリルパルツァー、ネストロイ、ホルヴァート、ライムント、シュニッツラー、小説家カフカ、シュティフター、シュテファン・ツヴァイク、ロート、ヘルマン・ブロッホ、ムージル、批評家カール・クラウスらがいる。戦後にはいると、郷土作家ドーデラー、亡命先のロンドンで活躍したカネッティ、エーリヒ・フリート、劇作家トーマス・ベルンハルト、具体詩のヤンドルとパートナーで詩人のマイレッカー、劇作家ペーター・ハントケ、バオアー、シュヴァーブ、エッセイストのアイヒンガー、ヴィンクラーらであろうか。かれらの作品はすでにおおく日本語に訳されている。

最後になりましたが、モデレーターのALIMO様、東京から映像をつないでくださった大野様、番組を見てくださった方々、そしてともにオーストリアで研究に励んでいる同僚たちに、この場をかりて御礼申し上げます。





写真:世界遺産でもあるシェーンブルン宮殿の脇にある、戦争で破壊されたかつての宮殿の残骸


<翻訳書>

―比較的安価で手に入り、18世紀以降のドイツ語詩(トラークル、ツェラン、バッハマンをふくむ)を通覧できる
『ドイツ名詩選』生野幸吉・檜山哲彦 編(岩波文庫) 

―ウィーン世紀転換期の文学のアンソロジー
『ウィーン世紀末文学選』池内紀編訳 (岩波文庫)

―オーストリアの現代作家(ハントケ、イェリネク、ベルンハルトら)の戯曲を多く収録しているシリーズ
『ドイツ現代戯曲選30』(論創社)

<番組中に名前の出た美術館>

博物館地区 http://www.mqw.at/
アルス・エレクトロニカ http://www.aec.at/news/

<オーストリアにある文学関連施設>

国立図書館  http://www.onb.ac.at/
ウィーン大学図書館  http://bibliothek.univie.ac.at/
市庁舎図書館  http://www.wienbibliothek.at/
アルテ・シュミーデ  http://www.alte-schmiede.at/ 
オーストリア文学協会  http://www.ogl.at/
演劇博物館  http://www.theatermuseum.at/
フロイト博物館  http://www.freud-museum.at/cms/

<劇場>

ヨーゼフシュタット劇場  http://www.josefstadt.org/Theater/Startseite/index.jsp
フォルクステアーター http://www.volkstheater.at/home/aktuell
シャオシュピールハウス  http://www.schauspielhaus.at/schauspielhaus

<映画館>

映画博物館  http://www.filmmuseum.at/
ヴィエナレ  http://www.viennale.at/de

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