2013年6月12日水曜日

<後記> 第7回ゲスト:鈴木悠哉さんより

SALONAIRの放送に関して幾つかの雑感、補足を述べさせてもらいます。 

<テヘラン、文化規制、その他>
世界中の都市の中で興味を覚える都市が幾つかあり、テヘランもその中の一つです。
前もってイランの状況を調べてみると、軍政による文化規制、そして宗教上の規制。これは特に女性に対してのものです。その大きな二つの要素を軸として細かい規制が存在する事を知りました。放送の中にも出てきたように,権力による、民衆への物理的、精神的な”抑圧”が存在すると感じました。後で気がついた事なのですが、僕が興味を持つ都市とはどちらかというと、なにかしらの要素のためにうまく社会が回ってない、滞っているような現状を持つ都市です。それは例えば、旧ソ連の国々であったり、東欧諸国、アジアの幾つかの国々だったりします。そこになにかシンパシーを感じる以上、やはり僕は日本の社会を決して成熟した社会とは思っていないのだと思うのです。
"抑圧”と一口にいっても内実はとても複雑です。ともあれ、そんな国の中にひとつ、”なにかしら個人的なイメージを自由に表現してもいいフレーム”を設けたとしたら、果たしてどのような結果が得られるだろうか、そういった興味をもとにテヘランでのワークショプにおける映像作品は制作されました。人類が国や、民族、宗教、などのあらゆる差異を越え、真に共有できる感覚があるとすればそれは一体なんだろうと思います。そういった興味のもと、今後も世界の幾つかの都市で作品を作っていこうと考えています。

<オランダ、一つのユートピアの形態>
オランダほど成熟した社会体制を持つ国をいまのところ僕は知らない。安楽死が合法であったり、大麻が合法である。また同性婚、管理売春が認められているこの国はたとえば日本から見たら転倒したイメージを持たれかねないだろう。しかし、ここに暮らして感じるのは徹底して合理的に、また徹底してニュートラルであろうとする意思のようなものです。オランダという国に乗り合わせた以上、民族がなんであれみなオランダ人になる。オランダという国には先入観というものが存在しない。手本になる国かは別としても、”オランダ”という尺度で世界を見る事はとても有効だと感じます。そして、オランダ滞在を経てもらったのはこの尺度のことだと感じています。

<ベルリンとスペース>
"ベルリンにはスペースがある”ということを多くの人が感じると思います。それと同時にベルリンには永遠に未完成な感覚がつきまとっている気がしています。この街の実験的な、またオルタナティブな空気をモチベーションとしてこの街にスタジオを持つアーティストが多い、ということもうなずけます。ベルリンには根底で資本主義にたいしてのアンチの姿勢がある気がします。それは、自分が思い描いたライフスタイルを択んでいく意思のようなものです。結果としてこの街で暮らすのにあまりお金は必要ありません。あるいはお金を稼ぐという選択もあるなかで、自分の時間を確保する、という選択も許されています。その選択の幅が社会に幅を持たせている。
結果として、世界の幾つかの国の中でもベルリンには別格のシンパシーのようなものを感じます。それはテンポラリーな性質のものでなく、長い歴史からにじむような精神性が街というかたちに実現されているからなんだろう、と思ったりします。

<ドローイング>
ドローイングをハブ的な機能だといえば、たしかにそうなのかもしれません。また、僕はドローイングをそのまま、ペーパーワークの事だとは考えていません。ドローイングとはすなわち、世界や現実の要素からそのポテンシャルを引き出す行為そのものだと考えています。そういった意味では例えば、先述したテヘランの映像作品も自分にとってはドローイングと呼ぶ事が出来ます。そこでは、なにかを作る、というよりはフレームを設け、いかに世界の無意識下にあるイメージを引き出すか、ということが命題になってきます。そういった実験のような事を続けているのだと感じます。

<その他、補足、リンク> 
*オランダ 
witte de with http://www.wdw.nl/ 
ロッテルダムにあるコンテンポラリーアートセンター。毎回の企画のキュレーションが興味深い。世界中のとんがった?アーティストの展示を数多くこなしている。
ロッテルダムにあるレジデンス総括組織。ロッテルダムにある幾つかのレジデンスで行われるイベント、オープンスタジオなどの広報、運営を取り仕切っている。こういった組織もあってか、ロッテルダムのレジデンスは横の連携がうまくとれやすい。他のレジデンススタジオにいるアーティストと交流する機会を多く持つ事が出来る。なお、各レジデンスのスタジオ環境もなかなか恵まれていました。
補足すれば、オランダのレジデンスが国や企業から助成金などをもらっている例は少なく、ほとんどがアーティストイニシアティブとしての運営形態となっています。僕が滞在したDUENDE STUDIOはもともと工業学校をリノベーションしたもので、スタジオスペースは巨大でした。普段はそこに現地のアーティストがパーマメントにスタジオを借り、制作をしています。そのうち3つのスタジオがレジデンス枠として設定されていて、スタジオアーティストの会議でレジデンスアーティストが決定されます。   

*ベルリン
オランダに比べるとベルリンのレジデンススタジオはコストが高めです。そしてアーティストが密集してきている現在その競争率も上がってきました。
ギャラリーに関しては、放送で述べた通りの印象です。この街へ来た当初、ベルリンビエンナーレがあって、そこにはごちごちの政治的テーマに乗っ取った作品しかなく、ベルリンは政治の街だ、という印象がそこで深く刻まれる事になりました。 
キュンストラーハウス/ベタニエン http://www.bethanien.de/ 
以上はベルリンのレジデンスの中でも質の高いプログラムを実施している(と感じる)スタジオ。日本人も何人か滞在しています。 
KW(クンストヴェルゲ) http://www.kw-berlin.de/ 
毎回とんがったキュレーションでベルリンのアートシーンを牽引している組織。 

*航空会社 
放送中、"ベルリンジェット”と言ったのは"エアベルリン”の誤り。とても安い。
と、イージージェット。 

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